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でん粉の基礎知識

食品づくりに不可欠なでん粉の基本情報を、でん粉の応用技術例を交えて解説します。

でん粉は、分子式(C6H10O5)n で表現される炭水化物の一つで、単糖類であるグルコースがグルコシド結合によって重合した、分子量が数十万にも達する天然高分子です。でん粉は植物がグルコースを貯蔵する際に生成され、種子や根などに多く含まれています。商業的に販売されているでん粉製品はトウモロコシ(レギュラーコーン、ワキシーコーン)、タピオカ、馬鈴薯、コメ、小麦などが主な原料となっています。

でん粉は6つの炭素分子がピラノース環を作ったグルコースで構成され、単体のグルコースは主として1-4位で、あるいは1-6位で結合します。このアルファ1-4結合が成長すると直線的な重合体を作りしますが、これはアミロースと呼ばれ、その鎖長はグルコースが500~1000個ほどとなります。一方でグルコースはアルファ1-6結合することで分岐を生じます。この場合鎖長はグルコース25~30個ですが、分岐することでアミロースよりも巨大な分子を形成し、アミロペクチンと呼ばれています。

植物の生成するでん粉が重なり合い、さらに隣り合うアミロース、アミロペクチンが水素結合で結びつきながらでん粉の粒子を作ります。この構造が、でん粉が溶解したり崩壊せずに温水を吸収して膨潤する機能を支えています。

でん粉粒は水中で加熱されると、弱い水素結合が切れて水を吸い込み、水和、膨潤します。でん粉粒が膨潤すると、溶液は透明度が上昇して流動性が減少し、粘度が上昇します。これを糊化(アルファ化)と呼びます。

でん粉はアミロースとアミロペクチンの単体または両方で構成されています。その構成比は起源植物によって異なり、糊化後の物性に大きく影響します。

さらに膨潤が続くとでん粉分子はばらばらになって水相に溶出、その後水素結合が復活、再結合し沈殿やゲルを作ることで白濁、離水などが発生します。これを老化とよびます。

でん粉は未加工のままでも、広く一般的に使用されています。

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あんかけの粘度付与

一般家庭でも使用されるもっともポピュラーなでん粉の応用です。水溶きしたコーンスターチや片栗粉(多くは馬鈴薯でん粉)を加熱することで、和風あんなどに粘性を与え、口どけと食べやすさを向上させるほか、食品への付着性を向上させることができます。
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せんべいなどの食感改良

せんべいなど工業的に生産される食品のほか、家庭での揚げ物などにでん粉を入れることで、さっくりとした軽い食感を創ることができます。口どけなども同時に向上し、おいしさがアップします。

天然のでん粉(未加工でん粉)にはいくつかの欠点があります。すなわち①粘度が持続しない、②撹拌や高温などの加工条件に耐えられない、③保存安定性が悪い、などです。このためでん粉を加工することでこれらの問題を解決、さらにでん粉の持つ固有の特徴を強化あるいは抑制し、特定の使用目的(たとえば適度な粘度を付与する、結着性を向上する、安定性を高める、口どけ感を向上する、照りつや強化、ゲル化させる、分散させる、など)に対応し、品質を最適化しています。

架橋とはでん粉分子の結合を補強すること。この架橋技術によって膨潤を抑制することが可能となり、高温、長時間加熱、低pH、強い撹拌など、でん粉分子の水素結合を破壊し、膨潤を促進する条件下でも、でん粉粒が膨潤・崩壊しにくくなります。

安定化は老化を抑制する技術で、でん粉の老化によるゲル化、離水、外観や食感の変化を防ぎます。この技術ではでん粉粒内に官能基を配置、相互の反発力と立体構造によりでん粉分子が元に戻ろうとする動きを抑制、糊化状態を維持するものです。

食品の中には架橋と安定化の双方の機能性を求められるケースも多く見られます。厳しい製造、流通、保存環境のすべてをクリア、消費者においしさを届けたいときは、架橋と安定化の双方の機能を持った加工でん粉が使用されます。

でん粉を酸化させたり、細かく分解し安定化することで、でん粉の糊液の粘度を調整することができます。食品に緩い粘度を付与したいときや、薄い皮膜でコーティングしたいときなどに威力を発揮します。

ブラベンダービスコグラフは温度と時間によるでん粉の粘度挙動の特徴を把握するための分析方法です。横軸に時間、縦軸に粘度および温度を取り、でん粉の糊液の粘度が温度の上昇、維持、低下に対しどのように挙動するかを示すものです。下図は標準的な架橋、安定化でん粉と未加工でん粉のデータを同じ座標軸にプロットしたもの。未加工でん粉は温度上昇後70度付近より膨潤、その後崩壊し粘度が低下するのに対し、加工でん粉は粘度を維持しています。

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調理めん、冷凍うどん

調理めん、冷凍うどんなどの食感改良に、でん粉は広く利用されていますが、老化によってそのなめらかさ、弾力性が失われてしまいます。安定化でん粉は食感を改良し、さらにその状態を長期の保存期間中も維持します。
使用でん粉:NATIONAL 7
添加量:20%
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ベーカリーフィリング

ベーカリーフィリングの製造工程には強い撹拌や加熱などが含まれ、でん粉にとって極めて過酷です。この問題を解決したのが架橋・安定化でん粉。製造中に起こるでん粉粒の崩壊による粘度低下などの品質劣化を防ぎ、最終製品である菓子パンなどのおいしさを守ります。
使用でん粉:THERM TEX
使用量:3%
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レトルト・デミソース

レトルトのデミソースは、低いpH、高温高圧下での製造・殺菌、長い品質保持期限など、極めて厳しい条件をクリアし、その上更においしさが求められる食品です。架橋、安定化されてたでん粉は、そんな中でも食品の品質を維持しながら、さらに差別化できる新しい食感を実現します。
使用でん粉:THERM FLO
添加量:2%
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冷凍グラタン    

調理から解凍まで、冷凍食品には様々な物理的ストレスがかかります。架橋し、さらに安定化したでん粉は、そのすべてのプロセスに耐え、高品質を維持します。
使用でん粉:NATIONAL FRIGEX
添加量:3%

でん粉を加工することで加工食品の品質は飛躍的に向上しましたが、刻々と多様化する消費者の要望に対応すべく、様々な新製品が生まれています。

  • 加熱糊化(アルファ化)させてから再度乾燥させた、アルファ化でん粉
  • 親油基を付与することで乳化機能が付与された、乳化性でん粉
  • 熱処理だけで架橋と同じ機能を付与した、物理加工でん粉
  • ヒトの消化酵素で分解されない、レジスタントスターチ(難消化性でん粉)

これらのでん粉は多様化する食品の中で、様々な目的に使い分けられています。

でん粉を糊化させてから再度粉末化させた製品は、冷水と混合しただけで増粘などの機能を発揮するようになります。カップ入り冷製スープや非加熱のドレッシングなど、非加熱工程で粘度付与をしたい場合や、ベーカリープレミックスのように焼成まで加熱されない工程中ででん粉の食感改良機能を利用したい場合など、にアルファ化でん粉が役に立ちます。

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クッキー・クラッカー

固い食感、軽い食感、もろい食感など、アルファ化でん粉をプレミックスに配合しておくことで簡単に実現が可能です。
使用でん粉:NATIONAL 208
添加量:10%

親水性のでん粉に親油基(オクテニルコハク酸基)を導入することで、でん粉は乳化剤としての機能を発揮します。でん粉自体の持つ粘性も加わり、安定した乳化を作ることができます。ドレッシング、コーヒークリーム、乳化香料のような乳化食品のほか、卵製品のような半固形の食品のなめらかさやスムーズ感の強化にも使用されています。

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親子丼

とろっとした卵特有の食感をレトルト食品などの加工食品で表現したいとき、乳化性でん粉が役に立ちます。
使用でん粉:N-CREAMER 46
添加量:2%

でん粉を乾熱処理することででん粉の結晶構造を強化、架橋でん粉と同様の機能性を付与することができます。加工は熱処理だけなので、表示は「でん粉」となります。無添加食品など、安心や安全意識した食品に、あるいは自然な食感や粘性を付与したい食品に応用できます。

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フルーツヨーグルト

ヨーグルト本体にもフルーツソース部分にも、それぞれ物理加工でん粉を使用することができます。高温、高圧、低pHにも安定、かつナチュラルな食感を創る物理加工でん粉は、ヨーグルトの自然な味わいをそのままに、品質の向上を図ることができます。
使用でん粉:NOVATION PRIMA 600
添加量:2%

でん粉の中にはヒトの消化酵素では分解されないタイプのものがあり、消化に「抵抗性」があることからレジスタントスターチ(難消化性でん粉)と呼ばれています。レジスタントスターチは不溶性の食物繊維に分類され、小麦粉などの糖質をを置き換えることで、低糖質化を容易に実現できます。

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チーズブリオッシュ

パンの小麦粉部分の置き換えで、低糖質のブリオッシュを。タピオカ由来のレジスタントスターチで、食感や風味をそのままに、30%の糖質削減が可能になりました。ブリオッシュ1個(約50g)につき糖質は約10g。おいしい健康志向の食品です。
使用でん粉:NOVELOSE 3490
添加量:小麦粉部分の40%置き換え
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